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【朝ドラ】大久保さんのような上司も絶滅危惧種?! -スカーレット-

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一人前になれた時、何が(誰が)自分を育ててくれたのか気づくものなのね...

 朝ドラ『スカーレット』がスタートして1か月が経とうとしている。朝ドラは1日のスタートにふさわしい爽やかで前向きなドラマに仕立てくれているので、モチベーションが下がっている時は特に朝ドラで元気をもらっている。前シーズンの『なつぞら』では、泰樹さん(草刈正雄さん)に大いに励まされたが『スカーレット』では、大久保さん(三林京子さん)のおかげでこの秋のダダ下がりのモチベーションを支えてもらってきた。

  下宿屋『荒木荘』の女中である大久保さんは、大家の荒木さださん一家に長年仕えてきた家政婦のエキスパートである。そこへ、中学を卒業して女中見習いとしてやってきた主人公の喜美子は徹底的にしごかれる。何事にもダメだしされ、やり直しさせられ、一生懸命やっても「ちゃっちゃとやりや~!」と喝を入れられ…。しかも大久保さんがいるうちは半人前だと言われて給料も微々たるもの。それでも喜美子は辞めなかった。

 

 さーて、今の社会を見回すと、大久保さんのような上司は「パワハラ」と言われかねない。世の中では、ほめ方や叱り方を学ぶ管理者向けのOJT指導者研修があるという。『褒めてやらねば育たない』『強く叱ったら折れてすぐ辞めてしまう』というのである。褒めてちゃんと育ってくれりゃあいいけど…。

 

 私の場合、褒められる方がこそばゆい。社会に出て新人時代に褒められるなんて経験など無い。だって、本当に『新人』だもん。なーんにも解ってないしなーんにもできないから当たり前だ。仕事を1から教えてもらい、時に自分で考えて挑戦したりして、それでもうまくいかないことなんてのは多々あるわけで、仕事だから叱られることもある。自分は社会人のスタートは営業職だったので、自分がミスをしていなくてもクライアントから文句を言われたり、(今の時代で言うところの)ハラスメント的な攻撃にも遭った。当時は、若かったこともあって悩んだり傷ついたこともあったと思うが、今思い出せるほどの大事(おおごと)は無かった。というより忘れた。でも、自分の経験を誰かに話したら「ひどーい!そんな目に遭ったの~!私だったら辞めちゃうわ!」なんて言われるかもしれない。それでも、今振り返ると、一見、酷い目だと思われるような経験が自分を育ててくれた、ということは断言できる。

 社会人になって四半世紀も過ぎると「これはたぶんそういうものだ」と断言できるものがはっきり見えてくる。今、振り返って思うのは、スムーズにルーティンをこなすことよりも自分を育ててくれたのはハプニングである。それは、高嶋政伸が主演の『HOTEL』で言うところの「姉さん、事件です!!」というようなことだ。それは、一人前になってからでなくては気づけない。子供が親に育ててもらうように、社会人も一人前になるには育ててもらう期間がある。その時に、どれだけの経験ができたかでその後の社会人生活が大きく変わるのではないかと思う。一人前にならないと気づけないことなのだ。

 「できませーん!(ごめんなさい)」「間違えました~!(ゆるしてね)」が有効な新人時代であるからこそ許されるのであって、社会人になっていつまでもいい歳をこいても新人と変わらないようでは困るわけだ。だからこそ、新人時代に鍛えられるということは、しかも、愛ある指導をしてくれる上司に出会えることは豊かな社会人生活を送れるかどうかを決定づける(運)と(縁)であると言える。

 

 大久保さんの喜美子に対する指導も、仕事そのものに対する指導であって、仕事以外のことには文句は言わない。よくいるでしょ。機嫌の悪い上司が自分のストレスのはけ口に部下に八つ当たりをするってこと。これは、明確なハラスメントだ。でも、仕事そのものについてできていないところを指摘されて叱咤されるのは指導である。確かに、言い方や指導の仕方は上司側が気を使うべきだろうが、問題は(本来はできて当然ということができていない)事実に対する結果として叱咤されたのである。叱られる側はそこを忘れると「怒られた!」「酷いことを言われた!」だけで終わってしまうのだ。

 こんなことを言う私は古い人間なのだろう。でも、自分を育ててくれたたくさんのハプニング、指導してくれた上司がいて、今がある。

 

 私が大久保さんや喜美子に共感するのは、自分の性格も大いにあるだろう。

 私は褒められることが苦手だ。これが今の自分にとっては幸いした。褒められるとこそばゆい。どちらかというと苦手だ。で、私の場合、最初、自分にキツく当たってくる人がやがて自分を認めてくれるそのプロセスに燃えるのだ。そのために考えて、工夫して、努力して、ようやくニッコリ笑ってくれた時に達成感が得られるのだ。簡単に褒めてもらっても、この達成感を感じることはない。プライベートではこんなことを考えないが、こと仕事に対しては、初対面があまり好印象でない人(当たりがキツイ人)のほうが私のモチベーションは上がる。つまり私は喜美子タイプだということだ。喜美子タイプの私は、大久保さんタイプの上司が好きなのだと思う。

 

 褒められるのが苦手な自分は、たぶん、自分に対して厳しいのかもしれない。(食欲求に対してはめちゃめちゃ甘いけど)。だから、他人から褒められることではなく、自分自身に対する評価が大切なので、他人を介在せずにモチベーションを上げられるというのはフリーランスに向いているだろう。なんてったって、結果だけ出せばいい。評価はクライアントに対する成果のみで、企業でよくみられる「自分頑張ってるでしょ」パフォーマンスにエネルギーを注がなくていいのだ。

 

 第4週に入るころ、喜美子は約2年半の修行を経て大久保さんの後を完全に引き継ぎ、一人前と認めてもらった。社会人になって思うのは、身についたスキルはどれも無駄なものはないということ。職種が変わっても会社が変わっても、自分で手に入れたスキルは必ず役に立つ。だからこそ、新人と言われる、新人と言われてもしっくりくる歳に大久保さんのような上司を持つことができた人は、社会人として幸せだ。

 喜美子にストッキングの繕いをやらせていたのも、給料の安い喜美子のいわゆる副業だった。喜美子が器用なことを大久保さんは知ってこの仕事を取ってきたのだろう。父親が喜美子に金を借りに来たタイミングで、ストッキング修理の給金を渡すところなど絶妙である。こうした心遣いをしながらも、気づかぬふりとは大久保さん、大物である。

 今の時代、大久保さんのような上司が生きづらい社会だけれど、愛ある指導でまだ学生気分が抜けない若者たちを、5年後に社会で困らない幸せな社会人に育てて欲しいと思うのである。