エンタメ愛が止まらない!! リターンズ

愛するエンタメを語りつくせ!!

【映画】罪・罰・人...これを避けて我々は生きられないから - 楽園 -

f:id:entame-lover:20191031100015j:plain

選んだ道でやってくる運命を受け入れるしかないのか…

 100%シナモンのシナモンティーを手に入れた。スパイシーな湯気が鼻から入ってくると、香りと湿気でリラックス。今回の記事を書きながら飲むにはピッタリだ。というのも、映画の内容をちょっと思い出すだけでも胃の底がゾワッとするからだ。

 

 『楽園』は、『悪人』(2010年)、『怒り』(2016年)などの原作を書いた吉田修一氏の短編小説集を題材にしたサスペンスでいわゆる「イヤミス」の類に入るような重い物語。その余韻のまま書くとメンタルまで落ち込みそうなので、気持ちがほどけるシナモンティーを飲みながら、落ちそうなテンションに抗わないとね。

  エンドロールの原作に、短編小説集『犯罪小説集』に収録されている『青田Y字路』と『万屋善次郎』が載っていたので『楽園』はこれら2作品がクロスオーバーされているものらしい。が、一つの物語としてとてもよく合わさっている。というのも、『青田Y字路』の中村豪士(綾野剛)と、『万屋善次郎』の田中善次郎(佐藤浩市)は、それぞれの人生の分かれ道で悲しい運命コースを選んでしまったように思えるからだ。

 それにしても綾野剛くんってすごい。今、ちょうどTOMOさんがオススメしてくれた『空飛ぶ広報室』を見てキュンキュンしているところだったのに、同一人物とは思えない。『楽園』では中村豪士という役が本当に乗りうつっていて、どうにかしてあげたくなっちゃった。あぁ、こういう弱いところのある人に弱い私を改めて自覚。

 

 現在上映中なので、ストーリーは『楽園』の公式サイトで見て欲しい。

rakuen-movie.jp

 この映画を観てまず思いだしたのが、現在絶賛公開中の『ジョーカー』。豪士の悲しみと善次郎の怒りがジョーカーにも通じている気がしたんだと思う。でも『楽園』のほうが日本独特の(村社会)の残酷さと、だれもが加害者になりうるという怖さが描かれているし、他人事ではないリアリズムがある。

 居場所のない人たち。居場所のない場所から抜け出せない人たちが、どこへ向かって脱出しようともがくのか…。

 

 このドラマに出てくるY字路が、この世のすべての物事のルールとその残酷さのように迫ってきた。豪士が日本にわたってくることは彼の母の選択であって、彼の意思ではない。でも、豪士が祖国を捨て日本に来た…道。紬と愛華は下校途中で歩いた自分の家へと続くそれぞれの…道。東京での暮らしを捨てて限界集落での暮らしを選んだ善次郎の…道。だれもが、その先に楽園があると信じて進んだ道だったのに。。。この世とは非常に残酷なもので、悲劇へつづく道も用意されているのだろうか?過去には戻れないが、もし、その道を選ばなかったら…。選んだとしても…。同じ結果になったのか?これは愚問なのだろう。道は選んだ時点でもうその道を歩いていくしかないのだから。

 

 だれにだってある人生の分かれ道。その道がベストだと信じて選択して生きているのだけれど…。わざわざ苦労する道を選ぶ人もいる。「そっちちゃうやろ!」の道を選ぶ人もいる。スルスルーッと運がイイ方を選べてしまう人もいる。因果な世の中だ。因果とは、その行為がのちの運命を決めるという仏教用語である。まさに、その因果の中で人間は生きている。

 

 この映画のすごく良かった点は、物語の主軸になっている12年前に発生した幼女誘拐事件の犯人がハッキリしていないことだ。同じ場所で12年という時をまたいで同じような幼女誘拐事件が起きる。12年後に起きた犯人は捕まるが、その犯人が12年前に同じ事件を起こしたのかは分からずじまいに映画は終わる。観た人がそれぞれの思いで考え、そして、もし自分が考える犯人を誰かに口にした時点で、また、このような悲劇が起きる種火を点火するのだ。恐ろしや…。

 

 話は変わるが、あおり運転の犯人を勘違いしてSNSで拡散され、無関係の女性が犯人扱いされる被害に遭ったというニュースを見て背筋が凍った。『楽園』のような悲劇は小さな村社会に限らず世界中のどこでもその可能性があり、誰でも加害側に加わる恐ろしさがあるということを、この事件を他人事のようにとらえずに考えた方がいいと思う。すぐにだれかを犯人だと悪者だと決めつけて糾弾したがる人たちが、容易くその目的を達成できるツールがありすぎる。

 自分を守る盾として、そのために他者を攻撃するための矛(ほこ)として正義感という耳障りの良い言葉が利用されているように思う。正義とは正解がない。なぜなら、人の数だけそれぞれの正義があるからだ。つまり、正義感に則って行動しているつもりが、もしかして自分だけの正義感をかざすことが、実はわが身を守っているだけにすぎないのかもしれないということもある。

 

 観終わった後、誰が悪いと言い切れない感じが観る者への宿題を出されたような気持になったので、この作品は良く出来ていると思う。

 誰もがはっきりと分かるような悪者がいる社会のほうが、もしかして生きやすいのかもしれない。誰かが悪い、誰もが悪い、、、かもしれない社会は本当に怖い。

 

 ラストシーン。善次郎が可愛がっていた犬のレオが必死に善次郎を追いかける。あぁ、これだよね。自分の行く道に迷いがないっていう姿は…。動物に学ぶことが多いのよ、人間は。

 

★みじん子レーダー【映画】楽園

●ドラマティック度:★★★☆☆

●鑑賞後の心地良さ:★★☆☆☆

●ドラマの重量感:★★★★★

★観終えた後の宿題がけっこう難しいから心身ともに元気な時に観ることをオススメの129分