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【ライブ】まだまだ私はひよっこだ…-ヘンリー・ミラー リトグラフ展&ホキ徳田ライブ -

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御年86歳の弾き語りは、瞬間を生きるライブだった!

 『ジャズは大人の嗜み』だといわれたりするけれど、それは規律遵守のメロディから離れて奏者の感性をダイレクトに盛り込むアドリブに深い味わいがあるからだと思う。つまり、ジャズは、聴き手の力量というか味わい方のセンスも問われてしまう音楽だと思うわけだ。・・・まだ私が30代前半のころ、BlueNoteキース・ジャレットの演奏を聴きに行ったことがあるのだが、未熟な私はなにがなんだかさっぱり分からずひたすら名物のスウィンギン・ポテトばかりに手がいってしまい、満腹からの猛烈な睡魔に襲われた…という苦い思い出がある。「あぁ、まだ自分にはジャズを楽しむには力不足なのだ…」といたく反省した。

  時は過ぎて、オーバーフィフティになった私が、なんと自分の力量が試される機会にたまたま出くわすことになった。ホキ徳田さんの弾き語りライブである。現場は、立川市にあるArtistec studio lalala。アーティストの隠れ家のような場所である。

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ヘンリー・ミラーリトグラフ展も同時開催である

 ホキ徳田さんは、米国の文豪ヘンリー・ミラーの8人目の妻。ホテルでピアノを演奏しているホキさんにヘンリーが一目ぼれしたのが二人のはじまりというエピソードを持つ。芸術家としても名高いヘンリー・ミラーが惚れた女性である。

 

  私はヘンリー・ミラーの絵は子どものころからよく知っていてほかのアーティストとは少し違う思い入れがある。出合いは小学生のころ。友達と自転車を飛ばしてとなり町にある県立図書館に遊びに行くというのがひと時のブームになったことがある。本を読む時間はほんのわずかで、図書館前の庭で遊ぶ方が多かったのだが、当時の私は美術関連本を見る(読むのではない)ことにハマっていて、その中で出会ったのが、ヘンリー・ミラーの作品集である。

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表紙の表情に惹きつけられた

 1972年に発行されたこの本が、子供の私にとって特にインパクトが大きくて、図書館で何度もこの本を開いたことを今でも覚えている。当時の私とっては大きくて分厚くて重量感のある本だった。

 「ヘンリー・ミラー」と聞いて、すぐさまこの表紙を思い出し、その妻だった日本人がいると知り(無知でごめんなさい)、そりゃ、どんな人物か、どんなアーティストなのか会って聴いてみたくなるでしょう。

 

 高校時代の友人を誘って行ってきた。

 

 ホキさん、現在81歳と書かれているものもあるが、彼女から直接聞いたので、ここに書いてもいいだろう、実は昭和8年生まれの86歳だという。ピアニカを吹きながら登場した妖艶な姿は年齢不詳。『千と千尋~』の湯婆婆を彷彿とさせるパワーをまとっていた。

 

 さーて、期待のライブ!の段になり、ワクワクしていると、「もうね、今日が最後になるかもしれないから、みなさんのリクエストにこたえたいと思います!」ときた。古い歌なら知っているから、なんでもどーぞ!と。

 で、会場からいろんなリクエストが出されるのだけれど、「あの曲ね、、、えーと、どんなだっけ?!」といいながら、ピアノを弾きだし歌い始めるのだ。そして、演奏も歌詞も自由きままで思うまま。その中で時折見せる原曲と歌詞が素晴らしく引き立つので、気を抜いて聞き流すことなどできない。彼女の世界は、声のボリュームもピアノのタッチも力強く、その生きざまを映すようである。

 彼女のパフォーマンスは、聴き手の力量が試される即興かつフリーダムな弾き語りであり、ジャズのアドリブという枠をはるかに超えたフリージャズの極致であった。途中の休憩時間を挟んで2時間。極めて自由にテキトーに思うままの、途中ゲストからの飛び入り参加ありの、楽しいひととき。友達と「こういう80代になりたいね」と。生きながらえることができれば、できるだけフリーダムに生きたい。

 よく言えば即興的な自由演奏。その逆で言えば「オイオイ、ええんかいな。そんなに自由で!」という演奏。子供が知っている曲を途中まで弾いて、分からないところはハミングで、ホントに分からなくなっちゃうと弾くのもやめちゃう、、、みたいな、フリーダムな演奏。。。でもね、私はすっごく楽しかったのだ。ソウルに響いたというか、「いいんだ、それで!」と思ったのだ。知っている曲が流れ始めても、「この先、どんなんなっちゃうのか?」と思いながら、不意打ちを楽しみになっている自分に、

「もしかして、おもしろい大人に・・・なれてる?!」

  いろんなジャンルがあっていいし、いろいろな聴き方があっていい。でも、私は特に、奏者が生き生きと楽しんでいるその姿を通して伝わる音が好きなのだと思った。どんなに上手で素晴らしい演奏でも「どうだ!上手だろう!」「どうだ!スゴイだろう!」「俺の音楽でイカせてやるぜ!」「私の声で癒します!」というような、称賛を求めてくるような音には、私の心は響かないのだ。

 なーるほど!ジャズってそういうものね!それなら、マジでジャズって楽しいかも!今なら、今の私ならキース・ジャレットに身も心も浸せると思う。

 それはね、年齢と経験と心の揺らぎをたくさんを重ねないと身につかない。

 だから、ジャズは『大人の嗜み』だといわれる所以だ。ホキ徳田さんのライブから、彼女が「人生はすべてアドリブよ~!」と言っているように聴こえた。アドリブなんだ。アドリブが効く、効かない、とよく会話に出るけれど、私の人生ゲームは既定路線よりアドリブコースを選んだんだと心から思った。で、そこからはじまるフュージョンを楽しむことができればうれしい。そのためになら長生きしてもっともっと楽しみたい。

 ということで、自分の成長をほんの少し感じた面白い大人の芸術鑑賞ができた。