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【映画】これぞオタク魂の理想 - シュバルの理想宮 -

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オタク魂を持つ者には、きっと心打たれるはず!

 人が生まれてから死ぬまでの間に縁のある人や場所は限られている。その限られた人や場所は、自分の意思だけで広げることは難しい。でも、何らかの自然の法則でスルスル~ッと導かれることがある…というのを経験したことはないだろうか?

 私はそうしたスルスル~ッのおかげで今があると思っている。そんなスルスル~ッのひとつ。先日、縁あって「ホキ徳田ライブ」を楽しませていただく機会を得たのだが、会場は東京立川にあるアーティスティックスタジオlalalaである。(詳しくは立川市新聞の記事をどうぞ)

 このスタジオを主宰するしおみえりこさんのインタビュー取材のためスタジオへ伺った際に、夫でクラリネット奏者の橋爪恵一さんと、ご夫妻で世界各国を旅した時のお話を聞かせていただいたその中に、シュバルの理想宮の話があったのだ。アーティスティックスタジオlalalaは街の中にある杜の一角に建ち、アーティストたちの秘密の隠れ家のような場所でどこを見てもワクワクするのだが、特にインパクトがある一角があった。そこは、「シュバルの理想宮を模してアーティストの成田ヒロシさんが手がけたもの」だという。

 なんて素敵な空間なのだろうと感激していたところに、あのシュバルが主人公の映画がやってくると知った。・・・こういうのを、私は『スルスル~ッ』と表現する。

  『シュバルの思想宮』はフランス南部、リヨンから車で1時間~2時間ほどかかるオートリ―ヴという田舎町にある、シュバルという名の郵便配達夫が33年もかけて築いた摩訶不思議な建築物である。

 写真で初めて見た時ガウディの建築物を思い出したのだが、よくみると東洋的でエキゾチックで、我々が生きる世界を体現した宇宙の世界のような、まさに『理想宮』だ。

 これを、シュバルは愛娘のアリスのために作ったのだ。

 

 シュバルは寡黙で人に接するのが苦手で、周囲からは変わり者だと思われている。が、真面目で実直、そして何よりも強靭な体力の持ち主だ。彼が生まれたのは今から180年以上も前。郵便配達のための乗り物などない時代だ。1日に30キロを軽く超える山間を歩き続け、定年まで勤めを果たす。

 配達で山道を歩く中でつまづいた石にインスピレーションを受け、自宅に戻り、まだ赤ん坊のアリスのために宮殿を作り始める。

 雨の日も、風の日も、冷えた雪の日も…。配達の仕事で10時間以上も働いた後に、宮殿の建築に取りかかる…。結果、33年もの月日をかけることに。

 

 もともと、シュバルは家族縁の薄い人だった。先妻との間にできた第一子はわずか1歳で亡くし、その後、シリルという男子が誕生するのだが数年後先妻も病死。男手で育てることができずシリルは親類の家に預けることになる。その後、フィロメールという女性と再婚し、娘のアリスの誕生が宮殿を建築するきっかけとなるのだが、アリスはわずか15歳で病死、宮殿の完成を見ることはなかった。シュバルの理想宮完成の年に、シリル、その二年後に長年シュバルを支え続けた妻フィロメールも亡くなるのだ。

 彼の人生を傍から見ると、実直で勤勉な生き方が報われない不幸の連続のように思わるかもしれない。が、彼は悲劇の中に留まらない。

 それは、理想宮があったから・・・であろう。

 

 もともと娘のアリスのために作りはじめたのに、アリスを失ってもなお建築に情熱を注ぐ。30キロ以上の徒歩での郵便配達の途中で、魅力的な石があれば拾いカバンの中に収め、帰宅するなり一輪車を手にして、見つけておいた大きな石を回収して建築資材にする。

 黙々と、、、ただひたすら黙々と。

 

 完成した理想宮は楽園のように映る。彼は、過酷な人生の中で楽園を自らの力で築いたのだ。それがシュバルの生きる目的であり、喜びであったに違いない。

 

 他者からの称賛、評価、比較などは全く関心が無い、ただひたすらに、自分の思いをエネルギーに変える…オタク魂を持つ者には、とても響く物語だ。そして、アートとは魂の表現であるということが伝わるこの映画を多くの人に観て欲しい。

 Type-Bシスターズの二人は、涙を流しながらこの映画に感動し、シュバルの思いに触れながら、「あぁ、これでいいんだね(ここまでの生き方で間違ってはいないよね)」と。

 そこで、漱石草枕』の冒頭を思い出した。

 

 どうせこの世は住みにくい。
 ・・・どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
 

 ・・・でもって、それがエンタメになるのだ。(笑)

 

 

 人生は短い。その短い時間の中で、どれだけ心が満たされる時間を過ごせるか?それは、幸せとか不幸とか、、、そういう尺度ではなくて、専心するものがあるということ…。それで人はどんなに過酷な境遇でも生き抜けるんじゃないかと思う。

 

★みじん子レーダー【映画】シュバルの理想宮
●ドラマティック度:★★★★☆
●鑑賞後の心地良さ:★★★★☆
●ドラマの重量感:★★★★☆
●涙活度:★★★☆☆

★ちょっと嬉しくちょっと心配…オタクが長生きな理由が分かる静かで熱い105分