【映画】優しくなりたい~♪素直になりたい~♪ -ラスト・クリスマス-
まずは、久しぶりのエマ・トンプソンの老けっぷりに驚いた。彼女が登場する印象的な作品は、私はハリポタシリーズよりも『日の名残り』(1994年日本公開)が印象的だ。レクター博士で強烈な印象を残したアンソニー・ホプキンスとの共演で、なんともしっとりとした紳士淑女の内に秘めた高貴な愛を清廉と静寂の中で見せてくれた。当時の私が観ていた映画の大半は、20代ならではの大人への憧れと焦りもあって、邦画よりハリウッドよりヨーロッパという背伸び志向だった。そんな中で観た英米合作映画の『日の名残り』はだいぶヨーロッパ映画寄りの抒情的な作品だったことを覚えている。原作はあのカズオ・イシグロだということはだいぶ後になって知った。きっと、この映画はオーバー50になった今の方がずっと深く味わえると思う。
エマ・トンプソンは好きな女優さんだ。品があり芯の通った雰囲気と、柔和な目元と落ち着いた声…。『日の名残り』ではユダヤ人差別が取り扱っていたけれど、今回の『ラスト・クリスマス』だってただのラブコメではない。EU離脱目前のイギリス、ヨーロッパ全体が抱える問題も描かれている。
それでもストーリー自体はとてもポジティブだ。スマホを手に取り下ばかりを向く生活によって気づけばネガティブ思考になりがちな私たちに「上を向いて生きようよ」と語りかけ、誰もが抱えるいろいろな差別とそれを乗り越えるのは「愛しかない」という理由を伝えてくれる。
現在、上映中の作品なのでネタバレにならない程度のあらすじを。
主人公のケイト(エミリア・クラーク)は半ば自暴自棄な生活を送っている。彼女の一家はユーゴスラビアからの亡命移民であり、そのため、父親はユーゴでの弁護士資格を生かせずタクシードライバーとして働き、堅実で敬虔なカトリック信者の母親は極めて閉鎖的で家庭に閉じこもり、関心の対象はもっぱら娘たちに向けられていた。特にケイトは病気を抱えていることもあり、過保護っぷりが強烈で、彼女はそこから逃げようと友達の家を転々とするのだが、なにもかもうまくいかず、仕方なく実家へ戻る・・・すべてが中途半端で自己中心的で友人を失っていく…の繰り返しだ。
そんなケイトが働くクリスマスショップに、ある日、アジア系イケメン男性のトムが現れる…。彼女がへこむたびに彼が現れ、街のあちこちに連れ出し「Look Up!」(上を見て!)と、慰めてくれるのだ。やがて、二人の距離は縮まっていくのだが…。
ここからは思わぬ展開が待っている。
いろいろな映画がある中で、『ラスト・クリスマス』はとてもストレートで作り手のメッセージがダイレクトに伝わる作品だ。ネタを言わずに書くのは難しいのだけれど、これはラブコメに分類するよりも、ラブロマンスのほうがしっくりくる。なぜなら、テーマがロマンティックでミラクルだし、「ラブ」は恋愛ではなく愛そのものなのだから。
実際に起こっても不思議はないストーリーだけど、それはとても奇跡的なことで、しかも、私たちひとりひとりもそんな奇跡の中で生きているということを感じる物語だ。
自分本位で他人のことなんかおかまいなし、そんなケイトが映画のラストで「私たちは助け合うことで幸せになれる」と言う。そう、そこに気づいたら人生が何倍も、何百倍も、何千倍も彩り豊かに、幸せに循環するのだ。
それを教えてくれたトム。彼はスマホを持たない。その理由があるのだけれど、「そんなものに縛られないで上を向いて!」というセリフは今の私たちにも響くメッセージだ。流れ込んでくる情報、他人の発言に気を取られ、自分の心に向き合う時間がどんどん奪われ、気づけば(スマホ画面がある)下ばかり見ている…。そんな日々を送ってはいないか?上を見て、自分の周りの世界にもっと目を向けようよ、目の前に広がるリアルを見ようよ、、、というトムのメッセージは、彼だからこそ説得力がある。
誰もが優しくなれる。少なくとも「優しくなりたい」と思える映画の観方をしたいものだ。うがったものの見方がかっこいいわけでも、レベルが高いわけでもない。素直な気持ちでこんな映画を観て、心を清めて優しい気持ちでクリスマスを迎えようではないか!笑
映画のサントラはWham!(ワム!)、ケイトが持っているスーツケースに貼っていた『George Michael Forever』のステッカー、映画は2016年に亡くなったジョージ・マイケルへのオマージュでもある。さらに、主人公のケイトを演じたエミリア・クラークはくも膜下出血で死の淵から生還し奇跡的に復活した女優さん。トムを演じたヘンリー・ゴールディングはマレーシア出身の俳優さん。
ジョージ・マイケルを中心にキャストの生き様も垣間見られる作品。そして、ワム!の代表曲『ラスト・クリスマス』がシンクロするストーリーでもある。映画を観てから、歌詞をおさらいすると「なーるほど!」だ。
気持ちの良い映画を観て一年を締めくくるのはとてもいい。(・・・といっても、これが今年最後じゃあないけど)
P.S.劇中にちょろっと映画『ジョーカー』への皮肉?!っぽい演出があって、それも面白かった。
★みじん子レーダー【映画】ラスト・クリスマス
●ドラマティック度:★★★★☆
●鑑賞後の心地良さ:★★★★☆
●ドラマの重量感:★★★☆☆
●涙活度:★★★☆☆
★誰もが支え合って生きていることを実感して幸せを感じる103分