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【映画】Mother マザー:これも親子愛…なのかもしれないけど。

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"子は親を選んで生まれてくる”という言葉は少年にとってあまりにも厳しい…

いろいろ考えさせられる濃い7月だった

 自粛生活が解除されて日常を取り戻し始めたころに観に行ったのが『Mother マザー』。

mother2020.jp

 あれあらひと月以上経つ。7月は私もTOMOさんも誕生月なのでもっと気分アゲアゲでいきたかったんだけど、エンタメ界ではとても悲しいニュースがあったりして、私は自粛期間なんか比ではないほどメンタルが沈んでしまった(涙)ので、この映画のレビューを書く気になれないでいた。そのうち、バタバタッと忙しくなって悲しみに浸っている場合ではなくなり、それが功を奏したのかメリハリのある日常が戻ってきたけれど。

  なんでもない日常がどれほど有難く尊いか、そしてなんでもない日常に安心できている時、私たちは心おきなく日常から少し外れた遊びを楽しめるんだろうなぁ…、ということをコロナ禍で思い知った。日常生活が地味で地道な作業の繰り返しだからこそ、趣味や遊興がご褒美として楽しめる。なんでもない日常…とは、いわゆる「普段どおりの生活」だ。柳田國男さん的にいえば「ハレ」と「(褻)」の「ケ」。

 普段どおりの生活っていうのは、一人ひとり違うものだけれど、この映画に出てくる周平(奥平大兼)の「普段どおり」とは一体何だったのだろうと、今でも考えさせられる。

 

実話をもとにした映画

 映画『Moter マザー』は実話がもとになっている。6年前、私はこの事件を友人から聞いて知ってひどく驚いたことを思い出す。「なんで?」「どうして?」という言葉しか見つからない、「痛ましい」「ひどい」という言葉だけでは済まされないモヤモヤッとした気持ち…事件後、ときどき報道される少年の心情や裁判中の母親の話などを話題にしては、やりきれない思いを友人と話をしていたからこの映画にとても興味を持っていた。

 事件のこと、映画のストーリはまだ上映中なのでここで詳しく書かない。けれど、映画を観る前の覚悟は拍子抜けとなった。私にとってこの映画が極めて悲劇的な物語として映ることはなかったからだ。

 これが描き方によるものなのか、単に私個人の感覚なのかは解らないのだけれど、事件を知った時の衝撃ほど、この映画から悲惨さや悲しみは伝わってこなかった。これが、実際の少年と母親の関係に近いのか分からないけれど、彼らは彼らの中で確実に頑強な親子関係が築かれているように見えたからだ。

 

路上生活家庭で暮らすひとたち

 周平とその母、三隅秋子(長澤まさみ)は二人三脚、いや、運命共同体のように生きてきた。お金にだらしなく労働意欲が全くない母親の秋子は、身内に金を無心しながら生活をするものの、さすがに周囲には愛想を尽かされて、両親や妹から疎まれていた。ちょうど、周平の不登校も重なってその日暮らしの生活に突入する。ゲーセンで知り合った男 川田遼(阿部サダヲ)が転がり込んできて、秋子は周平をネグレクトし、金銭的にどうしようもなくなると周平を実家や妹の家に向かわせて金を無心させる。が、さすがに身内からも絶縁され、家賃が払えなくなると川田が温泉地の住み込みで働くようになり、そこに一家は移り住むのだが、川田が働く温泉旅館の金を盗んで逃亡。周平一家はラブホテルに寝泊まりをするようになる。やがて秋子は妊娠。川田は逃げるように姿を消し…。秋子と周平の転落生活、その合間に差し伸べられた光、そして、安定の生活からの逃避…。負のループに完全に陥って、周平は祖父母殺害という犯行に至る。

…その過程がじっくり描かれている。ぜひ、観て欲しい。こういう家庭が実在するってことを知らないより知っておいたほうがいい。

 

人は自分の経験からしか想像できない

 いやぁ、悲惨です。周平の人生は悲劇そのもの、、、というように私は捉えてしまうけれど、はたして彼らはどうだったのだろう?彼らの「普段どおりの日常」があのような生活であれば、ほかの人の生活を知らなければ、彼は自分の身の上をそう悲劇的には捉えていなかったかもしれない。と思ってしまう。

 それはなぜか、というと、ネグレクトされながらも秋子と周平は強固の絆で結ばれているからだ。秋子は周平を都合よく利用し男に夢中で放置することもあったが、けっして手放さない。(ま、それは運よく周平が生きのびたから…ということもあるが)

 周平はそんな母を憎むどころか、「自分がいなくなったらお母さんは生きていけない」とさえ思っている。どんな仕打ちをされても、けっして母親から逃げないのだ。

 これは「究極の共依存」のカタチなのだ。

 私は自分の生きてきた過程とその中での経験からしか物事を見ることができない、想像すらできない、人というのはそういうものだ。だからこそ、自分とは全く異世界に生きる人たちの姿はフィクションでしか見ることはできない。映画やドラマはとても大事。エンタメは大事。

 

共依存」のループの恐ろしさ

 どんなに周りからひどいと思われているような関係でも、互いが互いを求めているから離れられない関係。親子やパートナー同士でありがちな共依存の悲惨なケースをこの映画は見せてくれた。大なり小なり、こういう関係は身近にあるからこそ、この映画を観た人の中にはヒヤッとする人もいるだろう。だれも幸せにならない、だれも幸せにしない、でも離れられない関係…。互いの凸凹を埋めるように…。

 周平は自立の「じ」の字もチャンスを与えられなかった。秋子が自立の芽をすべて刈り取ってしまったのだ。母子ベッタリな関係。その関係が心地良いせいなのか、秋子に自立心はない。働く意欲もなく、とにかく金を無心することばかり。路上生活を強いられても…。私たちからすれば、「そっちのほうが辛いだろ」と思うような人生をわざわざ選択してしまう。そういう人がいるのです。

 

事件がおきたことがチャンスになれば

 こんな関係から脱するために事件が起こるべくして起こったようにも思う。その犠牲者が祖父母(身内)であることというのもなんとも因果なものである。秋子と周平、そして周平の妹の冬華(浅田芭路)がそれぞれの人生を生きるチャンスを得ることができたら、祖父母も浮かばれるのではなかろうか。(ただ、それも極めて難しいけれど…)

 映画では、周平の逮捕後のことは少ししか描かれていなかったけれど、実際(事件を起こした)彼が、出所後、ちゃんと母親と断絶し、自分の人生を生きることができたらいいなと思う。切りたくても切れない親子の縁。それが、自堕落な道へしか進まないケースもあるのだ。

 

 自分にとって想像の範囲を超えている状況だからこそ、映画を観てその実際に少しでも近づくことができれば、私の想像力は今より少し広げることができたのかな、と思う。長澤まさみさんの毒親っぷり、大したもんです。彼女はエネルギーが満ち溢れていますねぇ。キングダムの楊端和は超カッチョ良かったし、正につけ負につけ、圧倒的なエネルギーを発しながら演じる姿に感服です。

 『Moterマザー』を観たら『ステップ』を絶対観て欲しいなぁ。中和作業は必要です。

 

★みじん子レーダー【映画】Mother マザー
●ドラマティック度:★★★☆☆
●鑑賞後の心地良さ:★★☆☆☆
●ドラマの重量感:★★★★☆
★社会科見学というにはハードだけれど観て損はない126分