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【映画】ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語:女性の人生の選択肢…今はめちゃめちゃ増えたなぁ。

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幸せだった幼少期の思い出が、それぞれ異なる人生を生きる勇気に変えるのかも…


若草物語世界名作劇場では第13作目

若草物語』といえば、フジテレビで放映されていた世界名作劇場シリーズの第13作目。私は世界名作劇場で感動の涙を流し育った世代ではあるけれど、世代が古い(涙)ので、『アルプスの少女ハイジ』から『トム・ソーヤの冒険』あたりがドンピシャリだった。

子どもは、子どもが主人公の物語を観て育ったほうがいい。なんてったって、まだ客観的な視点が育っていないからこそ主人公になりきってさまざまな経験ができるからだ。ドラマを観て一喜一憂し、ワクワクしては物語の続きの夢を見たり…(笑)。想像の冒険ができるのだ。

『トム・ソーヤ』の冒険からなぜピタリと観なくなったのかというと、NHKで放送されていた『大草原の小さな家』にドハマりしたから。このドラマは何度も何度も再放送されたが私は何度も何度も繰り返し観た。当時、おさげ頭の私はローラに似ている(たぶん、おてんばな性格が)と周りから言われたものだった。

自分の日常生活だけでなく、物語を通していろいろな子供の生き方を疑似体験して私たちは大人になっていく。アニメの世界名作劇場も『大草原~』も、自分とはかけ離れた世界の子供ではあったが、それぞれの世界での子供の日常が描かれているので、すごく身近だった。SFや怪獣、戦隊ものや魔法モノも面白いけれど、自分たちの身にも起こりそうなごく普通の日常が描かれている物語がもっともっと子供たちに提供されて欲しいなぁ…と思う。

 さて、そんなわけでテレビアニメが放映されたが私は『若草物語』を観ていない。4姉妹の話で貧しいながらも楽しい姉妹たちのエピソードが綴られたことまではざっくりと覚えているのだけれど「その先」を知らなかったので、たぶん、遠い昔に児童書の『若草物語』を読んだだけだったのだ。

 

若草物語』を知らなくても見応え十分

今回観た『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は、『若草物語』に登場する4姉妹のそれぞれの人生を、児童書で描かれていた微笑ましいエピソードにからめて進行する米国版『女の半生』とでも言いたくなる素晴らしい作品だった。

 

映画は4姉妹の次女ジョー(シアーシャ・ローラン)を中心に描かれている。ジョーが『若草物語』を書くまでの人生あれこれ、が、ほかの姉妹の生き方とともに描かれている。ストーリーの詳細はネタバレになるので控えることにする。

 

4姉妹それぞれの生き方

時代は南北戦争があったころ。アメリカの中流家庭(劇中では「貧しい」というセリフがあったが、本当の意味での貧困層ではない。だってメイドさんもいるんだから)に生まれた女子の人生を決めるのは「結婚」だと考えられていた。家柄や経済的な安定をもたらす相手を見つけることが女性の幸せだと考えられていた時代である。

そんな時代で4姉妹はそれぞれ違った人生を歩く。

自立心が旺盛で「小説家になる」という夢を叶えて生きていきたいと考えるジョーは、隣人でお金持ちの幼馴染ローリー(ティモシー・シャラメ)の求婚を断り、単身ニューヨークで執筆活動に励むのであるが、なかなか芽が出ず悶々としているところで、三女のベス(エリザ・スカンレン)が重い病との知らせを聞き、故郷へ戻る。…夢を叶えて独りで生きていくことを心に決めていたジョーは、ベスの喪失を機に深い孤独に陥り、ローリーの存在が自分に大きいものだと知るのだが、時すでに遅し。

四女のエイミー(フローレンス・ピュー)は画家を目指していたのだが、自らの才能で食べていけるほどの力はないこを悟り、金持ちの男性と結婚することを考えるようになる。実はエイミーは幼い頃からローリーのことが好きだったのだが、ローリーはジョーに夢中なのも知っていた。

長女のメグ(エマ・ワトソン)はいわゆる地元の男性ジョン(ジェームズ・ノートン)と結婚し、かわいい双子に恵まれるのだが生活はカツカツ…。優しい夫がいるものの、日常生活に追われ、子どものころ夢見た幸せな結婚生活とはほど遠いことを嘆いている。

同じ家で生まれ育った姉妹たちが大人になって選択したそれぞれの人生が、どのように展開されていくのかを見守っていくのが面白い。誰の人生が良くて、誰の人生が良くない、というわけではない。同じ家に生まれ育っても、それぞれの人生がある…ということだ。

 

作者ルイーザ・メイ・オルコットは生涯独身

映画でジョーは、ニューヨークでの執筆活動を支えてくれていた下宿屋の子供の家庭教師だったベアと結婚するのだが、物語の作者ルイーザは生涯結婚はしなかったらしい。この下りは、若草物語の出版に際して出版社の代表が、「主人公を結婚させないと読者が喜ばない」という趣旨の注文を入れたシーンで合点がいく。

若草物語』はルイーザの自伝的物語ではあるが、当時の時代の世相に合わせた(幸せな着地点)を盛り込んであるというわけだ。

ま、そんなことはどうでもいい。

この映画も、小説『若草物語』も創作物として、登場人物の人生を堪能したい。

 

昔は結婚で人生が変わるのは「女」だったが

この映画はフェミニズム的に捉えやすいけれど、私はフェミニズムは歴史と社会背景に大きく関係しているものだと考えているのであえてエンタメには絡ませて考えたくない。

マーチ家のメイドさんは黒人女性だったが、これも今の時代では差別問題と絡めていろいろ言われれそうだ。

歴史として実際に過去にあったわけで、そのことをエンタメで表現することに制限は課すべきでないと思う。たとえ負の歴史だったと現代で言われているものだとしても、観る側の知識や認識がそれらを事実や社会文化史として理解することがまだ必要だし、人間の歩みを創作物で伝えて欲しいと思う。

知ることは知らないより、感性を刺激するにはお得な気がするから。

 

この映画は女性の生き方がテーマの物語だけれど、その中心は「結婚」。結婚が女性の幸せを得るための手段なのか?結婚は単なる選択肢のひとつなのか?

女性の社会進出が難しかった時代には、女性の人生において結婚の意味が大きかっただろうが、今の日本のような「個」を重んじる社会では単なる選択肢の一つぐらいでしかない。

私たちは選択が自由で、どんな選択をしてもそれぞれにまた道が開けている時代に生きているわけだから、結婚の是非について考えること自体ナンセンスな気がする。

それよりも、自分の人生を歩いていくとき、自分の意思で決めて生きているか?という部分が重要なのではなかろうか?「自由」だと言われている今の日本でも、本当の意味で「自由」に生きられている人はそんなに多くない気がする。それほど日本は、社会や家族の絆や関りを重要視する国民性があるから。そんなすこし窮屈な土壌の日本でも、自分と周りの存在の意思を尊重できる生き方ができれば、振り返って嘆くことは少ない。自分の意思ではなく、逃げだったり、周囲からの推しだったりすることが、嘆きや愚痴に変わる。

…そんなことを、早世した3女ベスの生き方から感じた。彼女は慈善活動で貧しい家庭の世話をしている中、亡くなった乳児からうつされたしょう紅熱がもとで命を落とすが、彼女はピアノが上手で隣人のローリーの叔父にかわいがられ、好きな時にピアノを弾いて穏やかに優しく日々を過ごしていた。

なんと嘆かわしい人生だと周りは思うかもしれないが、死の床で語ったべスの言葉に後悔や嘆きはなかった。

穏やかに自分の宿命を受け入れる…。ベスは4姉妹で最も内向的な人物だが、最も芯が強い女性のように映った。

 

この映画は第92回アカデミー賞にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した。確かに衣装も素晴らしい。そうそう、大御所のメリル・ストリープもマーチ家の叔母として登場している。

ぜひ、(とくに)多くの女性にオススメしたい。

 

★みじん子レーダー【映画】ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
●ドラマティック度:★★★★☆
●鑑賞後の心地良さ:★★★★☆
●ドラマの重量感:★★★★☆
★女性の生き方のいろいろを見ることができる135分