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【映画】パラサイト-半地下の家族- 自暴自棄の悲劇。地上に這い出るにはどうすればいい?

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ハラハラドキドキ、心拍数が上がりっぱなし!

パルムドール受賞作品

 映画『Parasite』(韓国タイトル『기생충』)は、2019年カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した。前年に同賞を受賞した是枝裕和監督の『万引き家族』みたいな作品?だと思って映画館に足を運んだのだけれど、予想をはるかに超えたえげつなさとスピード感ある展開に圧倒された。たいした作品だ。

 物語は邦題のサブタイトルにあるとおり(半地下の家族)があるセレブ家庭にパラサイト(寄生)していく様を描いた物語。絶賛上映中なのでネタバレにならないように注意しながら書くけれど、もしこの映画に興味があるならまずは映画を観て欲しい。

 半地下で暮らすって?

 まずは「半地下で暮らす」という言葉は日本人にとって馴染みがない。「半地下って半分地下の家ってこと?」日本の物件だと斜面に建てられた家の2階が1階とみなされたりするけれど、そういう建物のコト?だと思って映画を観たらどうやら違う。本当に半地下の建物なのだ。いわゆる建物の上部に窓がある。日本の和室でいえば押入れの上にある天袋の高さあたりに窓がある。全体の約4分の3は地下…そんな家だ。
 調べてみると韓国で半地下の家はよく見られるらしく、2015年現在、韓国の全世帯の約2%の世帯が、地下または半地下に住んでいるという統計がある。
 集合住宅における地下、半地下の家は立地や構造上、恵まれた環境とは言えない。日が当たらず不衛生で、水まわりの設備が悪い。映画で登場した半地下の家は、トイレが最も高い場所に位置していた。それはできるだけ水圧を保ちたいためだろう。

 韓国といえば財閥系企業が経済の大半を担っている特殊な社会。財閥系企業に就職できなければ大卒者であっても年収200万程度という厳しい環境だという。そんな社会で学歴もなく貧困層の家庭に生まれたとしたら、そこから脱出するのはかなり困難…いや、不可能といってもいいだろう。

 

半地下暮らしがセレブ家庭にパラサイト

 半地下で暮らすキム家は家族全員失業中、日雇い内職でその場しのぎの暮らしをしていた。そんなところに長男ギウの友人ミニョクから、IT企業のCEOを務めるパク氏の娘の英語の家庭教師を頼まれる。ミニョクの海外留学中の代行を頼まれたのだ。ギウは大学受験に4度失敗しているものの受験勉強には自信があった。
 運よく、家庭教師になりパク氏の娘ダヘに気に入られ、パク夫人からも信頼を得るようになる。ダヘには多動気味で手のかかる弟のダソンがいる。彼は絵の才能がありパク夫人はその才能を伸ばしたいと考えているのだが、あまりにも落ち着きがないいたずらっ子なので家庭教師が続かないというのだ。そこで、ギウは美術の才能がある妹のギジョンを優秀な美大生として家庭教師として紹介する。
 こんなふうに、やがて家族全員がパク家に入り込むことに成功。ところが、思わぬ展開が待っている…。

越えられない壁。地上に這い上がれない理由

 冒頭のイラストのベンツの車両番号「1337」はわざと書いた。劇中で登場するベンツのナンバーではない。1337は英語の「leet」を略したナンバースラングだそうで、エリートとか立派という意味。
 映画『パラサイト』は韓国のエリート家庭に文字どおり寄生した半地下アパート暮らしの貧困家庭の話。

 映画に登場するパク一家とキム一家のどうしようもない「隔たり」は、けっして越えることができない地上と地下の隔たりとなって立ち塞がる。一時は、寄生に成功できたと歓喜に湧くがどうしようもない違いを消すことはできなかった。
 劇中ではその違いを(におい)で表現していた。体に染みついたもの。嘘でかためて体裁を整えても変えられないもの。それは生まれ、、、育ち、、、みたいなものだ。日本でも貧困のループなどといわれるが、まだ抜け出せるチャンスがあるように思う。そこが、財閥系で支配された国(?)というか、出生で人生の大半が決まってしまう社会なのか。定められた運命で生きていくことしかできない超格差社会なのか。

 

 日本も格差がますます広がっていくといわれているが、少なくとも本人の生き方しだいでチャンスを得られる社会であって欲しい。人は希望があるから頑張れる。それは経済面だけでなく、人との関りでも同じである。自分の存在を求められている実感が生きる力となり、生きる力が忍耐や努力の源になるから。
 

 悲観的な物語だがキム一家は家族の絆は深い。その絆の力が地下(マイナス方向)へ作用してしまったように映る。彼らが結束すればするほど、地下へもぐりこんでいく。

 

  劇中でとても印象的なセリフがある。ギウの父が「計画があるから想定外が発生して失敗する。絶対失敗しないのは無計画だ」と言うところだ。計画は失敗に遭うためのものであるという悲嘆は、お先真っ暗という絶望からくる言葉ではないか。計画とは想定と同じだ。未来に少しでも明るい想定ができれば計画の中に希望を見出すことができる。無計画…とは、行き当たりばったり、やりたい放題、好き放題…。キム家が無計画でパク家に寄生した結果は成功したのか? 残念ながら成功はなかった。無計画とは悲嘆の底によどむ自暴自棄だ。未来は地下シェルターの中のように暗く閉ざされる。

 

 日の光を浴びて生きるのって大変だなぁ…。

 

 

★みじん子レーダー【映画】パラサイト-半地下の家族-
●ドラマティック度:★★★★☆
●鑑賞後の心地良さ:★☆☆☆☆
●ドラマの重量感:★★★★★
●涙活度:☆☆☆☆☆
★社会の残酷な面をこれでもかと見せつけられる132分