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【映画】いつの時代も人はエンタメに魅了される - カツベン -

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語りだけで勝負できる演者ってスゴい!

 以前、日本で最も有名な弁士でありマルチタレントであった徳川無声さんの物語を執筆したことがあった。そのとき、彼の人気を不動のものにしたNHKラジオの『宮本武蔵』をyoutubeで聴いたのだが、語りだけでドラマを表現し、聴者の想像力を広げるスキルを知って圧倒された。面白いのでぜひ聴いてみてね。

 今は、いつでもどこでもいろんな動画を視聴できるし、VFX技術が進化してあり得ない世界まで視覚表現できてしまう世の中になった。でも、「声」だけで「語り」だけで、これらと同等の面白さを提供してくれる人たちの身体だけを使った最もシンプルかつ難易度の高い技術は、まさにマンパワー。AIの技術では適わない。

  ・・・ということで、周防正行監督がまたまた面白い映画を出してきた。『カツベン』は、まだ映画が活動写真といわれていた明治・大正期の無声映画に、舞台上で内容を解説する専任の語り部である活動辯士にまつわる物語。この活動辯士という文化は日本のオリジナルである。活動写真そのものよりも、弁士の語りにファンがついたのだ。つまり、日本人は本当にエンタメの楽しみ方が上手なんじゃないかとおもうのだ。

現在上映中なのでインフォメーションはこちらから↓

 

www.katsuben.jp

  主役の染谷俊太郎役を演じた成田凌くんの語りは素晴らしかった。歯切れがよく物語に惹き込まれるテンポと声色。そんなエネルギッシュな俊太郎とは対照的な落ち着きと品の良さがにじみ出る幼馴染で初恋相手の黒原梅子を黒島結菜ちゃんが演じている。

 俊太郎が子供の頃にあこがれた辯士、山岡秋聾(永瀬正敏)の全盛期の語りも素晴らしい。

 今、「語り」オンリーのパフォーマンスと言えば落語家さんや講談家、お笑い芸人の漫才や漫談など。先日は、M1グランプリに登場したミルクボーイに圧倒されて、大笑いしたのはもちろんだが、「Excellent!!」と不覚にも感動の涙を流してしまった(笑)。

 

 

 昔、刃物ひとつだけで生きていける職業として(料理人)(理容師)(大工)とか言われていたけれど、「語り」は道具が要らない。身ひとつで生きていける職業として最もシンプル。でも、最も難易度が高いんじゃないかなと思うわけだ。彼らの「語り」にたどり着くまでの道を考えると、持って生まれたセンスも含め、そりゃそりゃたいていの道のりじゃあない。

 

 周防監督の作品は、個性的な登場人物と人間関係をごく自然に、でも自然じゃない描き方でエンターテイメント化して観る者を楽しませてくれる。キャスト、脚本、演出…どのシーンも人間そのものを最も丁寧に表現することにこだわっているように思う。

 劇中に登場する活動写真のシーンは注目だ。周防監督作品に登場した方々が、活動写真に登場するので要チェック!

 『カツベン』の舞台は明治・大正期だから、すべての景色にノスタルジーを感じるけれど、それだけじゃない、人間の活動とは「語ること」から始まっていて、それだけで楽しさや面白さをどこまでも追及できるのではないか、と思わせてくれる。そして、あちこちで展開されるハチャメチャな軽犯罪(笑)。子供たちが、劇場に裏から忍び込んでタダ観(み)したり、居眠りじいさんが店番をしている駄菓子屋のお菓子をくすねたり・・・。昔のおおざっぱさというかいい加減さというか融通というものは、今はどんどん減っている。情よりルールや規則が重んじられて、世の中の治安は良くなっているのだろうか、、、ねぇ…。

 技術が進化していくのはもちろん素晴らしいのだけれど、その技術を取り扱うのはあくまでも人間。だから、人間らしい不完全さや人間ならではのベタな物語をエンターテイメントとして表現したものを私は渇望するんだと思った。

 

 話は変わるが、ちょうど、先日最終回を迎えた『俺の話は長い』で清原果耶ちゃんが演じた春海が、ラジオパーソナリティに憧れるというシーンがあった。こんな時代に、ラジオに目を向ける中学生がいるという設定が嬉しかった。人の「語り」は面白い。テレビのように姿を見ることができないが、そのぶん人となりがよーく伝わってくると思うのは私だけだろうか?声が直接届くラジオの面白さをどんどん味わって、ラジオというメディアを盛り上げたいと思ったりもする。

 

★みじん子レーダー【映画】カツベン
●ドラマティック度:★★★☆☆
●鑑賞後の心地良さ:★★★★☆
●ドラマの重量感:★★☆☆☆
●涙活度:☆☆☆☆☆

★活動写真&活動辯士の時代にタイムスリップ。明治&昭和のエンタメに浸れる127分