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【ドラマ】愛は空よりも広く、海よりも深く…怖い。 - お母さん、娘をやめていいですか -

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鳥肌シーンの連続!親の愛ほど深く、強く、重いものは・・・ない

 タイトルがストレートで衝撃的だった『お母さん、娘をやめていいですか?』はNHKドラマ10の枠で2017年1~3月に放映された連ドラである。主役の波留さんが朝ドラの『あさが来た』(2015年10月-2016年3月)でブレイクし、嵐の大ちゃんの可愛さ全開の『世界一難しい恋』(2016年4-6月)や、関ジャニ∞のヨコと陰キャ争いが面白かった『ON 異常犯罪捜査官 藤堂比奈子』(2016年7-9月)で全く異なるキャラを演じきって大したもんだと感心した後に、さらに違うキャラクターで登場して驚いたのが『お母さん、~』である。

  『お母さん、娘をやめていいですか?』は(母娘の親子共依存)と(毒親)を取り扱ったドラマである。

 主人公の早瀬美月(波留)は25歳。教師になってまだ日の浅い私立女子高校の英語教師である。母親の顕子(斉藤由貴)はそれはそれは手塩にかけて美月を育ててきた。専業主婦の顕子は家事も育児も完璧。そんなデキる母に絶大な信頼をもつ美月は何事も母に相談し、母も美月を全面的にサポートする。一方、父親の早瀬浩司(寺脇康文)は、ワーカーホリック気味で仕事と会社の人間関係に没頭し、家庭のことは顕子に任せっきり、、、というどこにでもありがちな家族である。

 この母娘。周囲からは「仲良しでいいわね~」「素敵な関係ね~」「ウチなんてなかなか口もきいてくれないから羨ましいわ~」と言われるような、仲良し&信頼関係が結ばれている理想的な親子・・・のように見える。が、これが恐ろしき共依存であるなど、当人はもちろん、周囲でさえ大半の人は気づかない。

 

 早瀬家がそれまで住んでいたマンションから、新築一戸建てへ住み替えようとすることから家族の変化が始まる。早瀬家(といっても顕子の)理想とする住まいを実現するために住宅メーカーの担当者である松島太一(柳楽優弥)が人懐っこく顕子のお気に入りにになるのだ。

 顕子の御眼鏡にかなった太一を美月に「彼氏にどーお?」と勧める。気立てがいいし、イケメンだし、婿に来てくれそうだし…。すべての条件はママ(ここでも顕子)ニーズなのだけれど。柳楽優弥くんの軽い感じで憎めない、人懐っこさが役どころにすごく合っている。

 母娘の関係に安住していた美月は、まったくその気はなかったのだが、顕子の背中押しに負けて、ついに太一とデートに…。そこに顕子が尾行するのだ。

 ヒヤーーーーーーーッ!!

 なんといっても斉藤由貴っすよ!数々のイケメンたちをオトしてきた由貴さんっすよ。『家政婦は見た!』の市原悦子も怖かったけど、由貴さんの熱視線が怖いのなんの。さすが、セーラー服にヤカンを持ちながら走り寄ってカップヌードルを作ってくれるだけあります。

 斉藤由貴は情念を表現するのがうまい女優さんなので、母の娘を思う念が怖いくらいに伝わってくるのだ。

 

 最初は全くその気がなく、太一から告白されても驚いて断ってしまった美月だが、顕子はどうしても太一を勧めたい。しぶる美月に太一は「じゃあ、三人でデートって、どうっすか?」と。ま、最初のデートも顕子が尾行していたから三人だったんだけどね(笑)。母がいる安心からか、思いのほか楽しいデートになったことを実感した美月はやがて太一に心を開いていく…。

 「その後太一は早瀬家に婿入りし、親子仲良く一緒に暮らしたとさ、チャンチャン!」と言いたいところだが、ここから顕子が『チャイルドプレイ』のチャッキーばりに娘への執念という恐怖へ追い詰めていくのである。太一と美月がイイ感じになると一転、顕子は太一との交際を反対するのだ…。

 その詳細と太一と美月の関係・・・はぜひドラマを観て欲しい。

 

 この顕子と美月の関係にヒビが入りはじめたのは、明らかに太一の登場である。共依存の関係とは『持ちつ持たれつ』『願ったり叶ったり』『二人三脚』『有無相通ずる』と言われるような、とてもちょうどいいバランスの上に成り立っていて、組体操で言えば扇(互いの手を握り合い左右に身体を傾けて、まるで扇が開いたような状態になること)の二人バージョンである。

 そこに太一が割って入るのだから、そりゃもう顕子は面白くない。面白くない程度なら可愛いが、命がけで太一と美月の関係を壊そうとするのだ。なぜなら、美月が顕子の手を離したら、、、どうなるか?でお分かりだろう。

 これが共依存関係である。

 

 だいたいは、子供は年ごろになると好きな人ができたり、親よりも何でも話せる親友や恩師などができたりして、少しずつ精神的に親から離れて自立していく。美月は幸いにして太一が登場したおかげで、これまでの母娘関係に「苦しい」と自覚できたが、そういう「よその人」の登場がないまま、いや、「よその人」の登場を拒絶したまま、どっぷりと扇のポーズに安定する人が世の中にどれだけ多いことか…。

 

 「親以上に、自分のことを信頼し大切に思ってくれる人はいない」と思えるのは、とても幸せだと思う。それが生涯そう思えるのなら、それはそれで悪くないのではないか、とさえ思う。が、残念ながら年齢的に「親は先に死ぬ」のだ。そして、家族以外の人と広く深く信頼関係を築かねば、自分の人生ノートブックのどのページにも家族印がついていて、自分だけで書いたオリジナルのページは無いままなのだ。

 

 人は成長すると自我を持つ。ゲス極が「私以外私じゃないの~♪」と歌ったように、成長すれば自我は発達する。自分の力を信じ、自分で選択して、自分にとって都合のいい人ばかりではない世の中で、上手に他者を受け入れながら、自我を通していくべく自分の人生を表現する。それができたとき「あぁ、楽しい!」「あぁ、気持ちいい!」と感じるのではなかろうか?

 それが本能だとすれば、いつまでも他人の存在に影響を受けて自我を抑え込んで生きるのは、実はとても苦しいと感じるときがくるのではないか、美月のように…。と思うのだ。

 そこは、どうなんだろう・・・。

 

 親子とか家族とか、、、人間社会の最小単位を舞台としたこのドラマを観て、いろいろ考えさせられる。人の数だけ人生があるわけで、どれもかけがえのない素晴らしいもの。尊い人生は人との関わり、つまり社会の中で生かされている。その最小単位である家族が自分の原点だし大切、、、だからこそ、こういう衝撃的なドラマを観て、ちょっと違った視点を持ってみたら、面白い。

 面白い・・・というより、斉藤由貴の娘への執念がヒートアップするのは恐ろしい、、、んだけど。

 子供を持つ親であれば、自分の中に在る家族論に風穴を空ける意味でも必見だし、そうでなくても、自分の人生を「オンリーワン」だと改めて考えてみたくなる興味深いドラマだ。