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【映画】ゴッホ展に行く前にオススメ -永遠の門 ゴッホの見た未来 -

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フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホ(1853-1890)

 来年でゴッホ没後130年になる。130年前、1890年といえば日本は大日本帝国憲法が公布された年。勝海舟が亡くなったのは1899年だから、だいたいどんな時代だかざっくりと分かるだろう。

 いま、上野の森で『ゴッホ展』が開催中である。ぜひ行きたいと思っているのだが、まずはその前に、ゴッホの人生に少しだけでも触れてみようと、映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』を観に行った。

  ゴッホの作品を知らない人はいない。世界中の人たちから称賛され、オークションに出されれば軽く億を超える値が付く・・・にもかかわらず、彼の存命中はその価値が開花することがなかった。しかも、彼が画家として活動していたのはたった10年ほど。・・・映画のセリフにも登場するが、まるでイエス=キリストのような、、、存命中は実は無名のいち市民でしかなく、死後、神格化された、、ような人物である。

 

 人はだれしも何かしら使命を持って生まれてきた・・・という言葉を、最近読んだ本で目にしていたく納得したけれど、大半の人は、その使命に気づくのは死の直前、もしくは分からぬまま人生を終えるのではなかろうか。なんといっても自分の人生を生きるので必死だし、今は、情報が多すぎて、自分自身だけに焦点を当てるチャンスも少ない。

 でも、時々、神様はこの世の中に、特別な才能を特定の人に与えるという仕掛けをする。しかも、本人のためではなく世の中のために…。特に、芸術の世界では顕著だ。努力では届かない域に到達して、私たちにこの世に生まれた喜びを感じさせてくれる世界を見せてくれる人をこの世に送り出す。ダ・ヴィンチとか、モーツァルトとか、アインシュタインとか、、、日本人だと手塚治虫とか、、、そういう人は、その天賦の才と引き換えに、多くの人が送る平凡な人生や人生を堪能する時間を取り上げられる…。つまり、天賦の才と平凡で穏やかな人生の両方は手に入れることはできないのかもしれない。

 

 ゴッホの人生は壮絶だ。生まれ持った気質と才能で、わずか10年ほどで数多くの傑作をこの世に生み出したが、彼の人生そのものを切り取ると、持って生まれた気質による生きづらさがベースにあり、不遇で社会からも拒絶され、孤独で貧困から脱することができない悲しいものだ。が、そんな人生で唯一、光を見出すことができたのが自然であり、彼が自然の中に没頭することを好んだのはこうした理由があるのではないかと思う。自然は彼を拒絶しない。優しくありのままの彼を包み込み、時に厳しさも見せながら、あらゆる姿を見せて彼の創作意欲を掻き立ててくれる。

 ポール・ゴーギャンが、「君だけが自然を前に思考する」と言わしめた理由が、映画を観ると分かってくる。

 

 ラストの不遇な死を迎えるシーンは、私たちが見聞きしていた自殺説を覆すものであり、衝撃的だ。確かに、彼は死ぬことを考えるよりも、自然の中に身を置いて、もっと絵を描きたかったのではないかと思う。

 

 ゴッホ展を観る前に、この映画を観るのはとてもいい。

 彼の描く絵は、音楽で言えばソウルミュージック。魂に直接響いてくる、まるでJB(ジェームス・ブラウン)のライブのように。美しく整った旋律ではなく、魂の叫びなのだ。ファンキーなのだ。だから、見る人を惹きつける。いつまでもその絵の世界に中に引き込まれてしまうのだ。

 

 さて、映画はというと、ゴッホの視点を表現している箇所が多く、三半規管が弱い私は画面を見ていて少し酔いそうになるところがところどころあった。けれど、よりゴッホに近づくためにこの演出がなされたのだと思うと、確かに、彼の生きづらさや、自然への愛慕がストレートに伝わってくる。

 

 凡人中の凡人である私には天賦の才など何一つ与えられることがなかったが、世の中には、芸術を生み出す人と、芸術を楽しむ人の両方が存在するのだとすると、めいいっぱいエンタメを楽しんでいる身としては、その楽しむ才能をもらえたと思って有難く生きていきたいと思う。

 スゴければスゴイほど人生は大変だ。そのスゴさを、楽しませてもらえる自分はなんと幸せなのか、こうした先人たちの才能に触れて改めて敬意を払いたい。

 

★みじん子レーダー【映画】永遠の門 ゴッホの見た未来

●ドラマティック度:★★★★☆

●鑑賞後の心地良さ:★★★☆☆

●ドラマの重量感:★★★★★

●涙活度:★★☆☆☆

★あの素晴らしい絵画と引き換えにどれだけ密度の濃い人生を送ったのかを少しでも知りたくなる151分